2023年06月03日、十勝岳を登山してきました。残雪期の終盤ということで多少の雪は想定していましたが、想定以上の雪が残っていて苦戦しました。特に今回選んだ十勝岳温泉登山口からのルート上は残雪が多かったようで、事前の情報収集が甘かったと反省です。結果論ですが、望丘台からのピストンでしたら、残雪の影響はほとんどなくて、通常のコースタイムで進めそうでした。そして残雪に加えて天候にも恵まれず、なかなか手厳しい登山となりました。
7時手前、ホテル前から町営バスに乗って、凌雲閣のある十勝岳温泉登山口まで向かいます。結構な距離を走りますが、料金が500円なのは嬉しいです。なお、十勝岳温泉登山口まで行く早朝便は、6月以降の夏季限定となりますので、山行計画時は注意が必要です。
前日は見えた大雪山の峰々が朝にはさっぱり見えなかったので、予想はしていましたが、山の上は一面のガスで真っ白です。テンションはあまり上がりませんが、山の天気は変わりやすいので、どこかで晴れ間が出てくれることを期待しつつ、登山届を記入して出発します。
登山口のところからさっそく残雪で道が塞がれますが、少し歩くと砂利道に出ます。しばらくは低木の木々に沿って、緩やかに坂を登っていきます。朝で曇天でガスなので、薄暗いですね。時折残雪が登山道に現れますが、少し歩けば土が露出してくるので、何とかそのまま歩きます。
少し歩いて落石注意の看板が見えたあたりで、ふいに強烈な獣臭が風にのって鼻をつきました。動物園で嗅ぐような臭いです。恐らくヒグマです。ただし、それ以降臭いや音などのその他の気配は感じなかったので、足早に去ります。一気に怖くなったので、熊鈴を入念に鳴らしつつ、炭治郎のように鼻を利かせながら先へ進みます。ガスで視界が悪いことと、登山者の少なさが恐怖に拍車をかけます。今回は9時間近くの山行で2人しか登山者に出会いませんでした。
三段山分岐を越えて歩いていくと、ヌッカクシ富良野川に出合います。ここは川が残雪で覆い隠されており、水が流れる音は聞こえるけど一切見えない状況です。幸いラッセル跡がありますので、それを足掛かりに進みます。少しでも位置を間違えたら踏み抜く恐れがあるので、慎重に進みました。
その後は安政火口方面に向かいますが、破線ルートだと途中で気づいて引き返しました。今にして思えば無駄なことをしました。
富良野岳方面に向かって歩きます。林の中を細い道に沿って進みます。途中エゾシマリスに出合いました。
ここまで残雪は現れても短い区間だけでしたが、いよいよ終わりの見えない雪渓歩きが始まりました。これはまずいと思い、木のあるところでザックを下ろして、チェーンスパイクを装着します。装着後はだいぶグリップが効くようになり、安心です。踏み跡を頼りに進みますが、雪渓がきれいに斜面を作っているので、足を滑らせたらと思うとヒヤヒヤします。先ほどまでの熊への恐怖が残雪対応で上書きされていきます。トラバースだけではなく、短いながらも急登区間もあるので、こちらもラッセル跡頼りに進みます。
上ホロ分岐あたりに出ますと、一気に視界が開けます。しかし雪渓に覆われて登山道も見えず看板もないので道に迷いました。踏み跡を頼りに進もうにも、先行者が迷って歩いた踏み跡だったりするので、結局同じように迷います。間違えて急斜面を登ったあたりで、諦めて引き返すことが頭に過ったのですが、その直後に右手に折れるラッセル跡を見つけ、さらにピンクテープの存在も確認できたので、ひと安心です。
その後は階段交じりのD尾根を登っていきます。登山道の脇には、ショウジョウバカマが花を咲かせています。全体的に高山植物の最盛期はもう少し先なので、この時期に花を見られる数少ない高山植物です。ちょうどこのあたりで、1人目の登山者に出会いました。
階段を登りきったあたりで、ガスが晴れて視界が良好になりました。上の方は雲が掛かっていて見えませんが、下の方はすっきりと見渡せます。この時が今回の山行で一番眺望が良い時間帯でした。遠くの急斜面を岩が音を立てながら下っている様子が見えて、見入られつつも気を引き締めます。
一旦ここでチェーンスパイクを外しますが、しばらく歩くと再び雪渓歩きが始まったので再度装着しました。登山道の両脇をハイマツが囲んでおり、ガスがなかったら遠くに絶景が広がっているんでしょうね。真っ白に染まった中を歩き進めます。
標高1,893メートル、上富良野岳に登頂しました。残雪に手こずり、予定よりだいぶ遅れての到着です。
ガスで眺望は全然ないので、稜線を歩いて上ホロカメットク山へ向かいます。岩交じりの道ですが、高低差はあまりないので、それほど苦労はありません。コメバツガザクラなど、僅かに見られる花を楽しみつつ進みます。
標高1,920メートル、上ホロカメットク山に登頂しました。同じくガスで眺望はないので、先へ進みます。
すると、雨脚が若干強くなってきたので、念のためレインウェアを着てザックカバーを装着します。その後は時折雨脚が弱くなって雨が上がるかと思いきや、結局しとしとと降り続けています。
少し歩いたら上ホロ避難小屋に寄って、雨を凌ぎます。中はかなりきれいですね。ちょっとした作業をするときに、雨を凌げる環境があるのはありがたいです。標高も上がり気温も低いので、小屋内の暖かさも嬉しいです。上ホロ避難小屋のトイレは使用可能になっていたので、こちらで用を済ませました。ボットン式なので、物を落としてしまわないように気をつけました。
いざ準備を整え、十勝岳を目指して進みます。避難小屋を出ると、すぐ近くにエゾシマリスがいました。撮影を試みましたが、素早く走って離れていってしまい、撮影失敗です。天気も悪く時間の余裕もないので深追いはしませんでした。
その後は十勝岳を目指して稜線を歩きます。軽いアップダウンを挟みながら進みます。両側は斜めに切れ落ちており、ガスさえなければ絶景が広がっていただろうと想像されます。途中、カッコウの鳴き声が聞こえてシルエットも見えましたが、如何せんガスが濃くてきれいに捉えることができません。
途中、名勝である大砲岩を見学しました。ガスで奥の方はうっすらでしたが、シルエットは見えました。立ち入り禁止ロープがあるので、それ以上近づくことはできません。
十勝岳が近づいてくると、火山らしい岩交じりのザレ場の上りが始まります。急登ではないので、粛々とペースを保ちながら登っていきます。
そして13時30分すぎ、標高2,077メートル、ついに十勝岳に登頂しました。相変わらずガスで眺望はまったくありません。山頂部は大きな岩が多く並んでおり、それらに色々名前が彫られているのを見て、残念な気持ちになります。雨は相変わらず降り続いており、風も冷たいので、早々に昼食用のパンを食べたら下山します。なお、山頂では2人目の登山者に出会いました。後ろに人の気配は感じなかったので、恐らく望岳台から登ってきた人かと思います。
雨足は一向に弱くなりません。とはいえ、大雨とまではいかず、本降りといった程度です。しばらくは火山らしいザレ場をトラバースしながら下っていきます。思いのほか足元は滑りませんでした。勾配がひと区切りすると、なだらかな下り道になります。砂地になっており、若干靴がめり込みますが、歩きやすい道です。道幅が広い部分があるので、誤った方向へ進まないように、ペンキ跡を頼りに進みます。途中残雪部分に出合いますが、雪が積もっていない箇所を通って進めるようにも見えます。ただ道迷いのリスクを回避するべく、素直にラッセル跡に沿って歩きました。
すり鉢火口を越えたあたりで、再び急な下りが始まります。土が粘土質であり、それらが雨で濡れたことで、ベトベトになって登山靴に纏わりつきます。また登山靴の中もだいぶ浸水して、ビショビショになりました。不快感と共に、足裏の冷えも少し感じます。
登山道が90度折れ曲がるあたりで少し長めの雪渓歩きを行ない、十勝岳避難小屋に到着しました。中に入って小休止します。まずはビショビショになった靴下の水を絞ります。靴自体が濡れているのでまたすぐに濡れるでしょうが、気分の問題です。
そして下山再開です。真っすぐ下山道を進んで、雲ノ平分岐を越えて、吹上温泉分岐に出ました。ここを左手に進んで白銀荘を目指します。この先は雪渓はないかと思い、チェーンスパイクを外しました。やはり雪のないところでは、少し歩きにくいです。
しばらく平坦な道を歩きます。途中道が少しわかりにくい場所がありましたが、白銀荘の看板を見つけてひと安心。森林の中の細い道を進みます。すると途中で残雪が登場しました。もう雪はないかと思い、チェーンスパイクを脱いでしまったのでそのまま歩きますが、ちょっとした拍子に滑りやすさを感じて、チェーンスパイクのありがたさを思い知ります。道が見つけられずに戸惑った箇所もありますが、粛々と進んでいきます。途中、九条武子の歌碑がありました。
やがて富良野川に出ました。夜間が大雨でしたので、それにより川の水量が増しています。普段なら濡れずに渡渉できるのでしょうが、この時はどこに足を着いても水面がハイカット以上の高さです。既に雨で靴の中はビショビショなので、濡れること自体はもうあまり気になりませんでした。それよりも水の流れによる力は結構強いので、足を取られて流されないように気を付けました。なお、ここでがっつり水に浸かったため、途中で登山靴に付いた粘土はきれいに洗い流されました。
後は吹上温泉登山口までもう一息です。登山道は雨によって小さな沢と化しています。前述の通り、もはや濡れること自体は気になりません。吹上温泉観測局の建屋を見てゴールだとぬか喜びしつつ、そこから5分ほど歩いて、下山完了です。
本来は白銀荘で温泉に入りたかったのですが、雨天山行で足がびしょ濡れであることと、バスの時間まで余裕がないことから、泣く泣く断念しました。
今回の山行データは以下の通りです。十勝岳温泉登山口から入り、上富良野岳、上ホロカメットク山と縦走して十勝岳に登頂し、そこから望岳台ルートで下り吹上温泉登山口へ抜けました。予想以上の残雪に苦戦したことで、標準コースタイムより2時間余計に掛かっています。残雪があまりなかった下山道は、ほぼ標準コースタイムとなりました。
距離 | 15.07km |
山行時間 | 8:47:12 |
経過時間 | 9:26:15 |
高度上昇 | 1,074m |
高度下降 | 1,366m |
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