立山・剱岳縦走(2日目:剣山荘~剱岳~剣山荘)

2日目、5時手前に起きて、5時30分から朝食をいただきます。その後は山行に向けた準備を整えます。剱岳ということで、なるべくリスクを排除するために、アタックザックを使用して荷物の軽量化を図ります。普段写真を撮影しているミラーレス一眼も置いていき、撮影はスマホで対応します。主に懸念したのは下記です。

  • メインザックを背負っていると岩壁を登っているときに後傾になりやすい
  • ミラーレス一眼を首から掛けていると、その分身体が壁から離れるので、剥がれやすい
    • ザックに入れて必要な時だけ取り出す、だと面倒だし、そもそも重いので置いていきたい

メインザックを廊下の棚に置いて外へ出ると、昨夕のようなガスや風はなくて穏やかでした。ただ雲が広がっており、晴れ間は期待できない様子ですね。てんくらの登山指数はBです。最初の計画では、剱岳登頂後に室堂まで戻ろうとしていましたが、バッファがなくて危ないかなー、と思い、剣山荘での一泊追加に切り替えました。

ヘルメットを被ったら、さっそく出発します。最初は一服劔を目指して登っていきます。第1鎖場の手前で先発した10名超のグループがいましたが、先へ行かせてもらいました。ここはごく普通の鎖場で、鎖を使わなくても登れます。しばらく進むと第2鎖場が見えてきます。こちらはトラバースです。それからザレ場の急坂をトラバースしながら登っていきます。クロユリのコルとの分岐で道を間違えそうになりましたが、補正して先へ進みます。そこから程なくして、一服劔に登頂です。

山頂標がないか探してみましたが、見当たりません。看板の折れたような跡はありましたので、これがそうだったのかもしれません。一服劔からは次に登る前劔を見渡すことができます。

さて、まずは一服劔を下ります。この区間は特に岩山といった感じではなく、普通の登山道です。ちょこちょこ岩の混じった細い道です。下り終えると前劔の正面に出ます。中央にケルンがあり、広さもあるので、休憩に良いです。

前劔の序盤は、ガレ場を登ります。ちゃんと道が作られていますので、そこを辿れば滑ることなく登れます。ガレ場の途中で右へ入る道がありますので、そちらへ進みます。この先は岩場登りになります。落石、浮石注意の看板があります。注意していたためか、浮石は思ったほど多くない印象でした。ここからはちょうど一服劔の山頂を望むことができます。序盤で追い越したグループが休憩している様子が見えます。

さて、先へ進みます。岩と雪の殿堂の二つ名の通り、岩場が続きます。縦に登る第3鎖場、トラバースする第4鎖場を通過します。岩が多いですが所々に花も咲いており、トリカブトやチングルマなどを見かけました。岩場を歩き続けて、前劔山頂に到着です。

前劔山頂は小さな山頂標があります。正面には剱岳がそびえる様子が見えます。時々ガスが掛かっていますが、まだ流れており、完全に真っ白という状態ではないです。天気は時々小雨が舞いますが、降ったり止んだりといった様子で、まだ岩に染み入る程度です。

前劔山頂から少し歩くと、登り専用ルートがありますので、そちらへ向かいます。ここから先は登りと下りでルートが分かれる箇所がありますので、案内を見落とさないように気を付ける必要があります。正面に鎖が見えるとつい登りたくなりますが、下り専用だったりします。

第5鎖場の手前にある、身体1つ分ほどの幅の橋を渡ります。写真で見た時は怖そうに思えたのですが、実際に歩くとそれほど恐怖はありませんでした。全長4メートルらしいですが、底が深い部分の距離はさらに短く、数歩歩けば通り抜けられます。ただ、鎖場と違って掴まる場所がないので、強風時は怖い気がしました。

橋を渡るとすぐに第5鎖場です。上の写真で真ん中あたりに見えます。切れ落ちた崖に付いた足の縦幅ほどの縁を進んでいきます。ややスラブですし、鎖以外のホールドもしっかりしているので、ゆっくり進めば問題ありません。登ったり下ったりして、ルート以外にも足を置けそうな場所がありますが、鎖を目安に正しい足の置き場を判断して進むようにします。ここから本番といった感じですね。

次は第6鎖場です。ここは劔岳に向けて前劔を一気に下るルートです。鎖はありますが、普通に岩をしっかり掴んで下っていく方が楽だと思います。リーチの長さなど人によって感触は違うはずなので、危なそうだと感じた箇所では、鎖を使うのが良いと思います。ここまで小雨がちょこちょこ降っていましたが、その積み重ねで徐々に岩が濡れてきていて、特に下りルートでは嫌な感じです。

下り終えると、いよいよ剱岳が眼前に登場します。この先も登りと下りでルート分岐しますが、前劔と剱岳の中間地点では、両方のルートが合流します。すれ違い不可能な崖のトラバース区間があるので、下山者の通過待ちを兼ねて小休止しました。

さて、いよいよ剱岳です。下り専用の鎖場を通り過ぎると、第7鎖場である平蔵の頭が登場します。こちらは岩のフットスタンスがなく、埋め込まれた鉄杭に足を乗せて登っていきます。がっつり垂壁でこれまでに登ったことのないタイプの足場でしたので、少し怖かったですね。特に雨で濡れているので、鉄杭が滑らないか心配でした。きちんと重心を鉄杭の真下に持ってくることが大切だと思います。

先へ進みます。時折ここは鎖がないのか、と思うような部分をトラバースして、第8鎖場平蔵のコルが登場です。最初はトラバースでその後は上へ登ります。きちんと足場を見つけていけば、特に難しくはありません。

そしてこの先で第9鎖場であるカニのたてばいが登場です。最初は鉄杭を足場にして取り付きます。その後は岩や一部鉄杭を足場にして登っていきます。雨でだいぶ岩が濡れてきていているので、慎重に登ります。途中写真撮影もしているので、ある程度落ち着ける場所もありますが、ここのルートはこれまでの鎖場と比べて特に長いです。しかも登り方向なので幾分疲れます。前述の通り雨で濡れていて、足場が限定気味だったこともあり、1箇所だけ岩のフットスタンスが分からず、鎖の固定部を足場に使ってしまいました。たぶん正しくないと思うのですが、他のルーティングが分かりませんでした。

カニのたてばいを登り終えたら、鎖場は一旦終了です。岩場の登っていくと、下山時に通るカニのよこばいが見えてきました。下山者を見送りつつ、山頂を目指します。うーん、すっかり白いですね。ザレ場を登りながら尾根を目指します。やがて早月尾根との合流点を示す看板が見えてきました。下側の道を通って山頂部の岩稜帯を登っていきます。

剱嶽社の後ろ姿が見えてきました。横からぐるっと回りこんで正面に出て、標高2,999メートル剱岳に登頂です。剱嶽社の前にはたくさんの山頂看板が並んでいます。こんなにたくさんのバリエーションがあるのは、初めて見ました。

山頂からの眺めは、南側は予想通り白くてあまり見通しが利きませんが、近場の山は時折見えます。北側も雲やガスが入っていますが、それなりに見通しが利いて高度感を得ることができます。完全に真っ白かな、と思っていたので、これだけ見えるだけでもありがたかったです。

三角点や荒城の月の看板などを一通り見たら、岩に腰を掛けて昼食休憩をとります。山小屋で注文したお弁当を頬張ります。そこそこ休憩していましたが、この間に山頂には誰も来ませんでした。やはりこの日は登山者が少ないですね。おかげで鎖場の渋滞もほぼなくて快適でした。雨による登りにくさを考慮しても、お釣りがくると思います。

天気は下り坂なので、長居はしすぎずに下山開始です。途中岩場で少し道間違いをしつつリカバリーしました。やはり下山時の方が道迷いに要注意です。

第10鎖場であるカニのよこばいに着きました。事前の情報では、ここが一番難しいと聞いていたので、気合が入ります。鎖が始まる最初の部分は、普通の道です。崖が現れてからが本番となります。目視できない足場のところが怖い、という話でしたが、赤いペンキでたくさん印があるし、足場に気づけていたので、どこが怖い箇所だったのか分からず終いでした。その先は足の横幅程度しかない崖の縁を歩きます。普段崖のトラバースでは、足を崖の正面に向けますが、その幅はありません。爪先に荷重する方法もありますが、足を崖と水平にして進みました。鎖場の名前の通り、カニの横ばいのような形で進んでいきます。ただ途中で1箇所、どうも進みにくく感じる部分があったので、そこは足をクロスさせて進みました。よこばい区間はスラブなので、壁に身体を預けるように進めば、あまり怖さはありませんでした。鎖は補助で掴めば大丈夫です。逆に鎖に体重を預けるような進み方は、身体を崖から離す進み方となり、そのような怖い進み方はできません。よこばい区間を終えたら、ザレ場混じりの岩場を下っていきます。ここも油断できません。最後に長い鉄梯子を下ります。

鉄梯子を下りたところは、足場はザレていてかなり歩きにくく感じたのですが、もしかしたら道を間違えたのかもしれません。でも見渡す限り他の正解ルートもなさそうでした。正面に見えてきた、平蔵小屋を目指して進んでいると、これまでの小雨とはレベルの違う本降りの雨が降り始めました。慌ててレインウェアを着ます。

それから平蔵小屋で雨宿りをします。難所とされるカニのよこばいを通り過ぎた直後で、平蔵小屋のある箇所で降られるのは、不幸中の幸いと言うべきでしょうか。携帯の電波が入ったので、雨雲レーダーで状況を確認すると、10分程度待てば雨足が弱くなりそうでしたので、しばらく待機します。

幾らか雨が弱くなってきたので、山行を再開します。しばらく歩くと、第11鎖場である平蔵のコルが登場します。一枚岩になっている部分が多く、先ほどの雨ですっかり岩が濡れてしまい、難易度が上がったと思います。グリップには頼らず、足を引っ掛けられる窪みを探しながら下っていきます。

続いて第12鎖場の平蔵の頭です。剱岳を下山中ですがこちらは登ることになります。濡れた岩で足を滑らせないように気を遣いつつ、登っていきます。1箇所、鎖間をトラバースするところで、少し傾斜の入った一枚岩を歩く必要があるのですが、雨で濡れた状態だと滑ってしまわないか、怖かったですね。手も使って支持しつつ、次の鎖へ移動しました。そこそこ距離があります。

剱岳を下り終えたら、今度は前劔を登ります。第13鎖場である前劔に取り付きます。足場はしっかりしているので、登りやすいです。

下山時は前劔の山頂は経由しません。下山専用の巻き道を通ります。途中、ペンキの解釈を間違えて、誤った方向へ下ってしまい、リカバリーしました。ザレ場の急坂でしたので、下手をすれば戻れなくなる可能性があり、もう少し早めに気づくべきでした。なまじ剱岳だから、このような難しいところもあるかも……と思い込んでしまい、判断が遅れました。登りのルートと合流したら、そのまま前劔を下ります。

前劔を下り終えたら、一服劔との中間地点で小休止を挟みます。近くをホシガラスが飛んでいて、撮影を狙いましたが、さすがにスマホカメラでは厳しいです。天気は少し薄日が見えてきたりして、このまま平穏になるかなー、などと思っていたら、ポツポツ小雨が降り始めて、遠くからは雷鳴が轟いてきました。

雷はまずい、ということで、慌てて山行を再開して一服劔を登ります。山頂付近は特に雷が怖いので、ささっと通り過ぎて、剣山荘に向けて下山します。岩場やザレ場の下りが続くので、慎重に下りました。そしてあと200メートルほどで剣山荘というところで、これまでとは桁違いの土砂降りに遭ってしまいました。あー、あともう少しだったのに。

13時すぎに山小屋に戻ったら、レインウェアと登山靴を脱いで乾燥室に干します。アタックザックもびしょ濡れなので、必要なものを抜き取ったら乾かしておきます。

その後はのんびりと過ごします。大雨で外へは出れないので、布団で寝転がったり、シャワーを浴びたりして、過ごしました。あとは雨で濡れてしまったザック内の荷物を乾かしていました。貴重品である財布も携行していたので、紙幣がビショビショなのがつらい……。これを契機に後日防水性のスタッフバッグを購入しました。

ちなみに朝に追い越しさせてもらったグループは、17時ごろ山小屋に戻ってきていました。11時間に及ぶ山行で、特に午後の雨はきつかったと思います。やはり山行時間が長くなることは、それだけリスクがあるな、と感じました。

夕食はハンバーグや海老フライでした。そして生ビールも注文しました。多少高所順応してきたのか、昨日よりは高山病特有の頭痛を感じないからです。下山後からそれなりに時間も経過しているので、いいかなと思いました。明日の行程を練りつつ、20時30分ごろ就寝しました。

というわけで、無事剱岳を登頂できました。万全の天気とはいきませんでしたが、それでも当初の登山指数Cから改善して良かったです。もともと風はずっと静穏予報でしたが、今回の天候で風があったらだいぶ大変だったかと思います。グローブは持っていきましたが、結局使いませんでした。ホールドの感触は、直に触った方が分かりやすいからです。寒さがある場合や土汚れがきつい場合以外は、素手の方がいいと思います。

ヘルメットは、転倒時やごく小さい落石発生時の頭部保護のために装備していますが、より確実に役に立つシーンとして、頭上の岩に気づかずに頭部をぶつけるケースが挙げられます。足元や手元に注意をしているとつい頭上への注意が疎かになり、2回ほど頭をぶつけましたが、ヘルメットのおかげでノーダメージでした。

改めて写真で振り返ってみると結構怖いなあ、という印象ですが、実際に歩いている時の感覚としては、そこまでの恐怖感はありませんでした。ガス気味で高度感がやや薄れていたこともあるかもしれませんが、複数の鎖場を通過していくことで徐々に身体の動かし方や鎖場に対する気持ちなどが慣らされているのかもしれません。

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